【幼虫】2話~殻~

「岡本君、土曜日市営コートに行こう!」

 中学に進学した私は、当時の流行りの某テニス漫画の影響を受けて硬式テニス部に入部した。喘息が完全には治っていないため、毎朝毎晩服薬し、朝練から放課後の練習まで汗を流した。今でもこんな私に良くしてくれる数少ない2名の友人との貴重な出会いの場ともなった。

 スイミングスクールに継続して通っていたからか、薬を飲むのを忘れた日も発作は起きなくなり、中学三年生になった頃には薬の処方は終了した。こうして私の一つの弱点は無くなったのであった。

 中学三年間は部活主体であったからか、徐々に虚弱体質が治り、身体中真っ黒な至って元気な少年へと変化した。それにともない、ある日から女性に人気が出るようになり、学校内にファンクラブが出来た。自宅に帰宅した際、知らない女子生徒が待ち伏せしていたことや、告白の電話がよくあった程であり、自慢じゃないが相当にモテた。

 こうして私は最大のコンプレックスからもたらされる屈折した感情を内包しながらも、友人や異性に好かれ明るく振る舞う、実にアンバランスな思春期の時代を送ることになった。周囲に異常に気を配り、自分の欠点を躍起になってひた隠し、その一方で、人に気に入られる事を望む歪んだ性格に変貌していったのだった。

 小学生時代六年間の遊び仲間だった健人は、生徒数の多さに心をやられ入学後間もなく不登校になっていた。そんな彼を心配する自分を装い周囲の好感を得る一方で、実際は彼に何の関心もなく自分自身が良ければそれで良かった。エゴの塊で歪んだ私を被う醜い殻は、とうとう今も変わることなく、日々分厚くなり続けている。